1 お母さんの憂鬱
2丁目石井歯科医院を訪れた 翔太くんは4歳。幼稚園の年中さんです。
妹のまこちゃんは1歳5カ月。お母さんに大人しくおんぶされています。
翔太くんはゲームしながら順番を待っています。
お母さんは時々泣きそうになるまこちゃんをあやすため、立ちあがって身体を前後にゆすりながら壁に貼ってあるお知らせを読んだりしています。
小さいお子さんを2人も連れているので、お母さんは内心2人が泣いたり騒いだりしないかハラハラしています。上の子の手を引き、下の子をおんぶする毎日です。幼稚園が終わる午後は、買い物のときも、お医者さんに行くときも、いつも2人の子どもと一緒です。
待合室のソファに座って、ゆっくり雑誌を読んでいる女性を見て、
―― 私も以前は、一人でゆっくり雑誌を読んで、買いたい服を探したっけ・・・――
心の中でつぶやきます。
―― ゆっくり雑誌を読む、そんな当たり前のことさえ出来なくなって、もう何年も経つなぁ。いつになったら、一人の時間が持てるようになるのかしら。下の子がまだ1歳だから幼稚園に入るまでにまだ2年以上ある。――
「はぁ。」
思わずため息が出ます。
お父さんは仕事で忙しいので、いつも一人で子どもの面倒を見ています。
お母さんの雪子さんは、結婚するまでベビーシッターのアルバイトをしていたこともあるくらい、子どもが大好きでした。
でも、いざ自分の子どもが生まれてみると、時間限定のアルバイトとは全く違う責任をひしひしと感じています。
―― 子どもはかわいい。でも、アルバイトのときみたいに時間が来たら終わりで、一人の時間も楽しめたらいいのに・・・。
そんなこと思っちゃだめ!
この子たちには母親は私しかいないんだから、頑張らなくちゃ。
あーでも、私ももうすぐ30歳。もっと遊んでおけばよかったな。下の子が小学校に行く頃には30代半ばになっちゃう。その頃にはもう遊べないだろうな。着たい洋服も似合わなくなりそう。子どもたちにお金もかかるから、もう少ししたら働いたほうがいいし、自分の時間なんてずっとないよね。――